暁月のフィナーレ パッチ6.0 81クエストまでのネタバレがあります
※エス→光♂(くっついてない)
「……あ! ニャン、ちょっと待って!」
メーガドゥータ宮へと向かう道中、極彩色きらめくラザハンの街並みに目を回しながら迷い込んだルヴェーダ製糸局を出ようとして、エスティニアンは暁の英雄に呼び止められた。
ニャン、という奇妙な愛称は、イシュガルド系エレゼン族の名に馴染みのない、ヒューラン族である彼によって付けられたものだ。エレゼンよりもだいぶ小柄な彼は、その体格に比例するのか舌の長さも異なっているらしく、わりと舌足らずで長い名前を噛むことがたびたびあった。
だからだろう。短いながらも旅をともにし、竜と人の千年にもわたる戦争を終わらせ「協力者」から「相棒」へと関係性が変じてからは、親愛の意味も込めてなのか、変に省略した名前で呼ばれるようになった。
エスティニアンにとって、それを不快だと思ったことはない。名の呼び方がどうであろうと、相棒の言葉には悪意などひとかけらもないと分かっているからだ。強いていうなら、そうやって彼に愛称で呼ばれるのを聞いた、愛らしい顔をしたエレゼン族の少女――アリゼーが、クルザスの地で見たベヒーモスもかくやといった表情でこちらを見ていたことは、数々の難敵を屠ってきたはずの蒼の竜騎士にとって忘れがたい出来事であった。
触らぬ神に祟りなし。かつて旅した東方で、そのようなことわざを聞いた気がするので、エスティニアンはその記憶を自らのうちに留めておくだけにしている。
閑話休題。ともかく、ラザハンの太守に会うべくこの地へと赴いたというのにそれを引き留められ、エスティニアンは怪訝そうに眉を寄せながら口を開いた。
「……何だ?」
「ラザハン織見てたら欲しくなっちゃって……こんなに綺麗な織物初めて見たから!
ちょっと買い付けるだけ、5分もいらないよ」
「それは後じゃ駄目なのか」
「ど、どうしても……織物は一期一会だから……!!」
人に望まれるがまま動いているように見える暁の英雄が、そこまで頑固にも食い下がるのが、エスティニアンにとっては意外だった。
確かに多少太守のところへ行くのが遅れたところで、自分たちの功績を思えば、そう文句を言われることもあるまい。そう考え、しぶしぶではあるが了承する。
「まあいい。じゃあ俺は外で待……」
「いーやちょっと待った、ニャン、社会勉強しよう」
「は?」
エスティニアンの長い腕を、セイアッドが両腕を使ってがっしりと掴む。優男ふうの見た目とは裏腹に、やはり英雄と呼ばれるだけのことはあるのか、そこから動こうとしてもびくともしない。
なんだこの馬鹿力は。やはり日ごろ盾役をしているのは伊達じゃないな、とため息をついて、抵抗を諦めることにした。
「このままほっといたら、アルフィノ以上に大変なことが起きると思う。なによりやらかしたらタタルさんが超怖い。
だから、ニャンには隣で見てもらって、何が高いのかっていうのを覚えてもらいたいんだよ」
「はあ……何が高いだの言ったところで、布は布だろう」
「そういう!! ところ!! ほら見てるだけでいいから、とにかく一緒にいて!」
ぐいぐいと腕を引っ張られ、サベネア織の在庫を検分している女性の前まで連れて行かれる。こういう、一度決めたらてこでも動かないどころか人を巻き込んでいくのも英雄たる由縁か……などと思いながらも、一応年上として黙ってつきあってやる。
そんなエスティニアンを引きずって、セイアッドが在庫担当と二、三言葉を交わすと、相手がいくつかの鮮やかな織物を机に広げながら口を開いた。
「今や物流も滞っておりましてね……せっかく作ったこの子たちも、どこに嫁入りできることもなく、ここに腰を落ち着けたままですよ」
「ええ、もったいない……こんなに良い織物なのに……この赤いほうなんか、使ったらすごく綺麗なドレスになりそう!
ああでも、男の人にも似合うかな……ファルシャム一座の人たちに贈ったら喜ばれそうだ」
「! ファルシャム一座を知っておられるのですか!? 私の妹が、昔ナシュメラさんに師事していて……!」
「そうなんだ!? 俺、踊り子としてあの一座に在籍してた時期があってね……」
目の前の女性と話に花を咲かせている、自分より低い位置にある青年の頭を見ながら、どうしてかエスティニアンの胸中に黒いものが渦巻いた。
5分あれば充分、と言った当人が、その時間をゆうに越して雑談に耽っているからか。それとも――
自分の中のどこからか、その答えが出てきてしまう前に、エスティニアンは肘でセイアッドの肩を小突く。
「そんな雑談に興じている場合か。社会勉強なんだろう、俺の」
「あっ、ごめんごめん、えーっとね……
こういう織物は、職人さんが細かく手で縫ってる装飾があるから、手間がかかってるって意味ですごく高くって……」
笑いながらそう言ってはつぎつぎと色彩豊かな布を広げ、エオルゼアの英雄が元蒼の竜騎士にサベネア織のなんたるかを教えていくという、珍妙な光景が繰り広げられていた。
思えば、このような穏やかな顔は初めて見たなと、セイアッドの説明もそこそこにエスティニアンは思考の海に沈む。
――初めて彼に会ったときは、どうしてこのようなちんちくりんに竜の眼が反応するのかと、苛立たしさすら感じていたのを思い出す。それほどには、この青年は戦いと縁遠い印象であった。
しかしその次に顔を合わせれば、彼の元々白い肌はそれを通り越して青く、唇はひび割れ、柔和な目元にはその印象に反して隈が色濃く刻まれていた。
自分が竜との融和の旅への同行を申し出たときには、彼らがイシュガルドへと赴く羽目になった事件からそれなりの時間は経っていたはずだ。それでも彼が睡眠をろくに取れておらず、食事もまともに口にしていないことは明白だった。
あとから聞けば、氷の巫女……イゼルを交えた四人旅の道中、アサー天空廊のさきにある広場で夜を明かしたときに、ようやっと人心地ついたのだという。
誰かが作る食事が、用意する飲み物が、毒の入った杯を思い起こさせてずっと怖かったこと。眠ろうと目を瞑るたび、裏切りの記憶が夢に現れては起きてしまうこと。
……つぎに目を覚ましたら、もしかしたら今度こそ誰もいなくなっているのではないかと、不安で眠れなくなっていること。
イゼルとアルフィノが寝ているあいだ、どうしても眠れないという彼が、哨戒のため起きていたエスティニアンへぽつりぽつりと語り掛けてきた。そんな寒いあの日の夜を、今でも忘れずにいる。
加えて彼はイゼルの作ったシチューを指して、やっとまともに口にすることができた食事だったとも言っていた。ともに旅をして心を交わし、真に信頼できると思えた彼女の作るものならば、たとえそれまで敵対関係にあったとしても食べられると思ったのだそうだ。
ひさしぶりに吐き戻さなかったんだよ、と語る彼の笑顔は、どこか痛々しいものを感じた。ひと回りも年下だという『英雄』とまで呼ばれたこの青年がいたたまれなく思い、少しでもいいから寝ろと頭を撫でてやれば、気を失ったかのように寝だしたことも記憶に新しい。
今思えば、何が起きても対処できるであろう年上の大人が横にいることが、彼に安心感を与えたのだろう。……これは決して、自惚れではないはずだ。
あの四人旅がフレースヴェルグの説得の失敗という形に終わり、邪竜を討つことで自らの復讐に終止符を打ったあと、しばらく彼と顔を合わせることはなかった。しかしその裏で、皇都で過ごしているからにはどうしても耳に入ってくる話もあった。
フォルタン家の私生児……オルシュファンが、蒼天騎士の凶刃に斃れたという一報は、さしもの蒼の竜騎士でも動揺を隠せないものだった。
その仇を討つべく魔大陸に行くのだと英雄は言う。しかしともに乗り込んだ飛空艇のなかで、彼が護られた証である穴の空いた盾を無言のままに抱くその姿は、英雄などではなく迷った幼子のように見えた。
……他人事ではない、とそのとき確かに思ったのを、エスティニアンは覚えている。
大切なものを一瞬にして奪われ、復讐心に身を灼かれ、前を往くしか道がない。そんなふうに追い詰められた姿が、あの日邪竜によって家族を、幸福を、平穏を奪われた自分とよく似ていた。
そうして魔大陸に向かう道中、彼をさらなる悲劇が襲った。乗り込んだ飛空艇が帝国の戦艦による砲撃に晒されるなか、それを守ろうと蛮神シヴァが――イゼルが、盾になったのだ。
激しい砲撃に見舞われ、すべての力を使い果たした彼女が氷のかけらとともに落ちていくのを見て、英雄と……もうひとりの蒼の竜騎士とも呼ばれた男が、半狂乱に陥った。
それまで彼が押し黙っていたのは、おそらくアルフィノの前では弱みを見せない『英雄』でいたかったからなのだろう。しかし彼の友であったオルシュファンに続いて、心を許した相手であるイゼルが犠牲になってしまったことが、どうにか押さえつけていた感情を決壊させるきっかけとなったらしい。
彼は飛空艇から身を乗り出し、もはや届く距離ですらないというのに、堕ちゆく氷の巫女のほうへ腕をめいっぱい伸ばしながら、彼女の名を叫んでいた。
アルフィノはそのような状態の彼を初めて見たのか驚きつつも、今にも飛空艇から落ちそうな彼を全身の力を使って引き留めていた。それを手助けすべく、ともに乗り込んでいたヤ・シュトラとエスティニアンの三人がかりで彼を止めた。正気を失った人間というものは、一人の力では止められない。やっと落ち着きを見せた……あるいは、呆然としていた彼は、うつろな目で砕けた氷とクリスタルの残滓を見つめていた。
あのころのセイアッドを見ているから、いま隣でころころと表情を変えながら話す彼を見ていると、エスティニアンにとっては感慨深いものがあった。
竜詩戦争を終わらせた上、果てには邪竜の影と化した自分の身を救ってもらったことにも大きな恩義を感じている。『暁』に加わったのはタタルやクルルの追跡が激しかったというのも大いにあるが、どうにも喪った弟の姿を重ねて見てしまうアルフィノとセイアッドが望むのなら、彼らの力になってやりたいと思った。……決して本人たちに言うつもりはないのだが。
「……ニャン? ちゃんと話聞いてる!?」
「あー、聞いてるぞ」
気もそぞろに話を聞いていたことに気付いたのか、組んでいた腕をセイアッドがつついてきた。
明らかにエスティニアンの集中力が切れていたのを見て、彼はため息をつきつつも織物を元に戻し始める。もういいのか、と訊けば「だって話聞いてくれないからね」と子どものように頬を膨らませてそっぽを向くので、面白くなってその頬をつついてやれば、すぼめた口からぷすっと音を立てて空気が抜けていった。
彼はそんな相棒の手を払いつつも、在庫担当の女性に向き直る。
「じゃあ、お代は置いて行くから、いったんこれと、ここからこっちのやつ……
合わせて20枚、取っておいてもらえると助かるな」
「取っておく? 持って行かないのか」
「今は荷物になるからね。それに物流が滞ってるって言うし、せめてお金だけでも出しておこうと思って」
不思議そうに後ろからのぞき込んでくるエスティニアンに、セイアッドは苦笑しながらそう言った。
「サベネアの塔だけ消滅させたところで、他の場所もどうにかしないと物流自体は元に戻らないだろうしね……
それまでにちょっとでもお金を落としていくのも、いまこの状況に抗うってことに繋がると思うんだ」
「……待ってください、あの塔ってもしかして……あなたたちが解決してくださったんですか!?」
「え、うん……そうだけど……」
驚く女性をよそに、セイアッドとエスティニアンは顔を見合わせて首をかしげる。そして、この件についてはまだラザハンじゅうの誰にも伝えていないことに今更ながら気がついた。
「な、なんと感謝を申し上げればいいか……! あの塔から化け物が出てくるんだって、たとえ太守様が護ってくださっていてもみんな不安だったんです。
ひとつの牧場が壊滅したとも聞いて……ああ、本当に良かった! そうだ、この織物なら差し上げます! 私どもの感謝の気持ちです、受け取ってください!!」
「い……いやいや! これで全部解決したってわけじゃないし、俺がお金を出したのは、その技術が素晴らしいと思ったから……!
だからどうか、正当な対価ってことでちゃんと払わせて、ね?」
「素直に受け取ればいいじゃないか。こいつはタダでやるって言ってるんだろう?」
「そういうことじゃないの! ニャンはちょっと黙ってて!」
ぐぐぐと両手でエスティニアンを後ろによけて、彼はなんとか担当の女性をなだめる。
いくらかの応酬ののち、なんとか納得してもらえたようで、またあとで来ます! と声をかけつつふたりはルヴェーダ製糸局をあとにした。
「まさかあんなに説得することになるなんて……」
「だから俺は素直にタダで受け取っておけと言ったんだ。
……ところで、お前はああいうのに興味を持つたちだったんだな。知らなかった」
サベネア織を前に、きらきらと目を輝かせていた彼を思い返しながらエスティニアンは言う。
確かに蒼天街の復興に手を貸すほど、職人としての腕前も一流なのだといつぞやにアイメリクから聞いた気がするが、それにしても裁縫の趣味があることは意外だった。
「……俺の母さんが裁縫師でね。というか、その前は冒険者やってたんだけど……まあそれはいいとして。
小さいころから母さんが作った服の着せ替え人形みたいになってるうちに、俺もだんだん作るほうに興味が出てきちゃって」
女の子の服も着せられたんだけどね……と少し遠い目をしながら語るセイアッドに、エスティニアンも思わず顔がほころんだ。
出会ってから長いはずだが、彼の家族の話は初めて聞いた。英雄だの解放者だのと持ち上げられる前に、彼はひとりの人間なのだ。そんな、当たり前ではあるが誰もが忘れていたことを実感させられる。
家族という存在はすでに遥か遠く、記憶の奥底に鍵をかけていたエスティニアンにとって、穏やかに語られる彼の家族というものはどこか郷愁すら感じさせた。
「ああそうそう、実家が南洋のほうにあるんだけど、ここからなら結構近いんだってさっき地図見て分かってね。
だから母さんに本場のラザハン織をここから送ってあげたかったんだけど……まだ物流が回復してないって言うからさあ」
「……いや、そもそもお前の実家の話を今聞いて驚いているんだが……南洋の出身だったのか。ヒューランはとことん出身がわからんな」
「言ってなかったっけ? ……言ってないや。たぶん誰にも言ったことなかったかも……
だからこのへんの気候は実家っぽくて落ち着くんだよね。逆に言えばイシュガルドはほんとに寒かった。人が住んでいい場所じゃないよ、あれ」
「そこに住んでいた俺がいるんだが?」
もっとも第七霊災が起きる前は、イシュガルドが山の都と言われていたように、緑にあふれた比較的温暖な地だったはずなのだが。
寒がるそぶりをするセイアッドの頭上に軽く手刀を入れてやれば、「ニャンが怒ったー」と緩さすら感じる声で言われる。それを聞いてなんとも言えない気持ちになり、エスティニアンは嘆息しながらもその手をおろした。
どうにもエスティニアンとふたりきりでいるときの彼は、ともすれば年端もいかない子どものように見える。事実、彼は二十歳になったばかりで大人と子どもの境目に立っているのだ。
しかし周囲が、人が、世界が、彼に子どもであることを許さなかった。英雄と崇められ、一騎当千の戦力として数えられる。そんな彼がエスティニアンの前では等身大の人間に戻っているのは、それだけ心を許している証左でもあった。
――その事実が、元蒼の竜騎士にとっては、少しだけむず痒く感じる。
「……ところで、実家には帰っているのか」
「いや、全然! というか帰る暇とかなかったし! そもそもどこから帰ろうとしても遠いからなあ……
でもきっと、一度帰っちゃったらダメだ」
「何か不都合でも?」
「……両親の顔を今見たら、俺、戻れなくなっちゃうよ」
声色こそ笑っているが、俯きながらそう語るセイアッドの表情は、背の高いエスティニアンからは伺い知れない。
冗談、にしては彼から二の句が継がれず、ふたりの間に静寂が横たわる。活気を失ったラザハンのなかで、その静けさは無限のようにも思えた。
彼の英雄としての仮面は、きっと剥がれる寸前だ。そんな状態で日常の象徴たる親の姿を見てしまえば、『英雄』は『人』になってしまうのだろう。
……だが、それの何が悪いのだろうか? エスティニアンの胸中に、ふつふつと怒りのような感情が沸き上がる。邪竜をこの手で屠ってからは、久しく感じていないものだった。
「なら、お前が安心して実家に帰れるよう、終末なぞぶっ飛ばしてやらんとな」
「え?」
思いもよらぬエスティニアンの言葉に、セイアッドが弾かれたように顔を上げる。
「今帰ったら牙を抜かれて戦えなくなるんだろう? なら、そんな牙がなくても生きられる世界にしてしまえばいい。
あのふざけた塔をぶち壊した要領でいけば、まあ、どうにかなるだろう。お前はひとりで戦っているわけじゃあない」
激励のような言葉を己が口走っているのが、どうにも不思議な心地だ。しかし呆けたような相棒の顔を見れば、こんな言葉も悪くないと思った。
口角を上げ、いつぞやのキャンプの夜でそうしたように、軽く頭を撫でてやる。へへ、と笑い声を零しながらそれを受け入れる彼を見ていると、どうしてか昔飼っていた牧羊犬を思い出した。
散々羊を追い回させたあとによくやったと撫でてみれば、短い尻尾をぶんぶんと振って懐いてくるのだ。その思い出が目の前の相棒の姿に重なって、エスティニアンはとうとう吹き出してしまった。
「何笑ってるんだよ、もー」
「いや……ずいぶん間抜けな顔だなと思っただけだ」
「ひどっ! さっきちょっとカッコいいと思った俺がバカだった!」
「ほう、カッコいいと思ったのか?」
マンドラゴラも驚くような意味不明な言葉を発しながら、胸元をぽこぽこと叩いてくるセイアッドから逃れるように、エスティニアンは翻って歩き出す。
歩幅の大きいエスティニアンに置いて行かれないように、待ってよ! と言いながら駆け寄ってくる彼の足音を聞きつつ、ラザハンの豪奢な建物を出た竜騎士は空を見上げた。
先刻まであった、空を割くように建っていた奇妙な塔が消え、代わりに出てきたかのように、そこには柔らかい光を放つ月がぽつりと浮かんでいる。そしてそんな月を取り囲むかのごとく、星々は命を燃やしながら輝いていた。
まるで、後ろを歩く彼と自分たちを表しているようだと、柄にもなくエスティニアンは思う。しかし、こちらはあの星のように燃え尽きてやるつもりはない。
「……せいぜい、独りにはさせないさ」
「え、何か言った?」
「何も。ハンサの鳴き声と聞き間違えでもしたんじゃないか」
おかしいなあと首を捻る彼を横目に見つつ、メーガドゥータ宮に繋がる道を往く。
月に照らされ伸びるふたつの影は、寄り添うように揺れていた。