星芒祭2022のイベントクエストおよび
蒼天のイシュガルド パッチ3.3「最期の咆哮」までのネタバレがあります
「すみません冒険者さん。忙しいのに色々お手伝い頂いてしまって……」
「いえ、こっちも楽しかったので」
星芒祭実行委員長からの頼まれごとを終えて冒険者がミィ・ケット野外音楽堂に戻ると、ローレンセン准教授が申し訳なさそうに佇んでいた。
会ったときの勢いはどこへやら。相棒であるトナカイのブリッツェンの気持ちを無視していたこと、それを一介の冒険者に気付かされたことを未だ引け目に感じているらしい。
「それで、お詫びというか、報酬の代わりになるかは分からないのですが……
どうやらブリッツェンが、あなたに幻影を見せたいようでして」
「ブリッツェンが?」
「ぐぅぉ……」
なんとも言いがたい独特な鳴き声を発しつつ立派な角をぶんぶんと振ったかと思えば、頭をこちらにぐいぐいと押し付けてくる。ローレンセンが命令をしているのではなく、本当にブリッツェン自身が望んでいることのようだ。
よしよし、とブリッツェンの顎の下を撫でてやると満足そうに鼻を鳴らす。普段チョコボにやっている撫で方は、どうやらトナカイにも通用するらしい。
日頃見ることのない、珍しい動物との触れ合いに顔をほころばせつつ、冒険者はブリッツェンへと語りかけた。
「じゃあ見せてもらおうかな。ブリッツェン、お願いできる?」
その言葉を受けて、ブリッツェンが高らかに鳴いた。きらきらと金色の光が尾を引いて、瞬く星とともに大量のプレゼントと雪だるまが舞う。
子どもに向けて幻影を見せている姿を横から見ていた時も綺麗だ、と思ったが、真正面から見ると殊更に美しく感じられた。
ありがとうブリッツェン――そう伝えようとして、目の前が一度真っ白に光る。
「聖人の従者から、イイ子のお前にプレゼントだ!」
聞き覚えのある――ある、どころか二度と忘れることはないだろう――声がして、冒険者は思わず伏せていた顔を上げる。
赤い外套に身を包んだ、大きなプレゼントボックスを持った長身の男性が目の前に立っていた。
氷を思わせるような淡い水色の髪が、ブリッツェンの生み出した幻影の光を反射して輝いている。けれどそれ以上に、彼の人柄をそのまま表したような笑顔が眩しい。
「……、」
突如現れたその姿に、名前を呼ぶことすらできなかった。
いつも会いたいと思っていた、もう会うことが叶わないその身へと縋りそうになる心を抑えて、震える手で箱を受け取る。
聖人の従者としての役目を果たした彼は満足そうに頷くと、こちらを見てもう一度微笑んだ。
――行ってしまうのだ、とすぐに理解してしまった。
行かないで、なんて今更言えない。消えないで、なんて言う資格がないのも分かっている。
これはブリッツェンが見せてくれた、いや、自分が見たいものをそのまま映した都合のいい幻想だ。これが夢だと言うならば、醒めなければいけないのが道理だろう。
だから、いつもそうしているように、滲む視界に気付かないふりをして、彼に向けて笑ってやる。
笑顔が一番イイのだと、他でもないあなたが言ってくれたから。
「ありがとう、聖人の従者様。どうかあなたのところにも、星の輝きが届きますように」
そうして、もう一度白い光がふたりを包んだ。
「…………冒険者さん、冒険者さん! 大丈夫ですか!?」
次に目を開けると、ローレンセンがこちらの顔を覗き込んでいた。
「……ローレンセンさん?」
「ああよかった、無事でしたか! ブリッツェンが鳴いたと思ったら突然辺りがあなたを中心に光って……そうしたら、立ったまま動かないでいるものですから」
「立ったまま……?」
過去視が発動したときのような感じだったのだろうか。それとも、エスティニアンから竜の眼を引き剥がそうとした際に見た”彼ら”のようなものだったのだろうか。
どちらにせよ先ほどの幻影は、どうやらローレンセンどころか周囲の誰にも見えていないものだったらしい。
それが分かって、冒険者は内心胸をなでおろした。彼との思い出は、自分の中にだけあればいい。
「ブリッツェンは、素敵なプレゼントをくれましたよ」
「……は、はぁ……? それなら良かったんですが……」
不可解そうに首を捻るローレンセンを横目に、ブリッツェンの頭を撫でてやりつつ辺りを見渡した。
音楽堂は星芒祭を祝う人々で賑わい、雪は静やかにグリダニアの地へと降り積もり、緑を白へと変えていく。
子どもは珍しい雪にはしゃぎ回り、大人もどこか浮つく心を抑えきれず、祭の装飾に目を奪われている。
この光景は、かつて自分が、そして「彼」が、命がけで守った輝きだ。この輝きをこれからも守って行こうと、人知れず決意する。
――ああ、今日はとてもイイお祭りだ!